コロナ後遺症漢方薬 総論

今回は、医師向けの記事になります。一般の方は、医師の処方と特記されている漢方は、担当医にご相談ください。

●コロナ後遺症の複雑な病態に切り込みたいです。コロナ後遺症・慢性上咽頭炎の漢方治療について。

●慢性前立腺炎や慢性膀胱炎や慢性上咽頭炎など、体内の「奥」にある臓器の慢性炎症の漢方薬は少ないです。かつ、治療は難渋します。奥の臓器に届かせるのが難しいのか、炎症の程度が漢方では太刀打ちできないほど強いのか。両方でしょう。

●コロナ後遺症の漢方治療の難しさは、患者さんの体力が極度に落ちているため、慢性炎症のキードラッグ「柴胡」の入った漢方薬が使いにくいところにあります。余力のある患者さんに私は柴胡剤を処方していますが、柴胡が少量の「補中益気湯」さえ飲めない場合、補剤による治療が中心となり、長期治療は覚悟します。

人間の体内には、自分で作り出す内因性ステロイドがあります。ある種の柴胡剤(柴朴湯)は、この内因性ステロイドの代謝酵素11βHSDをブロックすることで、ステロイド効果を長引かせる作用が報告されています1,2。自分のホルモンなので、ステロイド剤がもつ副作用もなく、マイルドに抗炎症効果を得られるキードラッグです。(柴胡の研究は上記#1, 2以外にもあります。また順次、参考文献はアップします。時間なくてすみません。)

●目の裏やのどの奥の灼熱感・・・それらは上咽頭周辺の炎症を強く示唆します。第一選択は、首から上の強い炎症を抑える黄連解毒湯。しかし実際、使える患者さんは少ないです。(ちなみに黄連解毒湯は味が飲みにくいので、コタロー社のカプセル製剤を処方しています。飲みやすさの評判いいです。)

●抗炎症の柴胡剤、黄連解毒湯。柴胡剤でいくか、黄連解毒湯でいくか、証で確認。どのように確認するか?はまた後日アップします。そして、必ず、様々な炎症物質を洗い流すための駆瘀血剤、当帰芍薬散と桂枝茯苓丸を併用。

●ブレインフォグには人参養栄湯、睡眠障害には加味帰脾湯・四物湯。なるべく、症例報告のある漢方を選んでいます。

煎じの人参養栄湯に必要な、昔から記憶障害に使われてきた遠志(おんじ)という生薬は、手に入りにくくなりました。卸会社の納入する遠志は、今まで粒のそろった大ぶりの遠志でしたが、流通が滞るにつれ、色の悪い小さい遠志になりました。さすが中国人、本場の買い占めは強いです。在庫、これからが心配です。

●将来エビデンスが出てきたら、この記事は削除するかもしれません。また、随時の加筆修正もあります。現在私がしている漢方治療をここに記します。

●定期処方は、2剤までは保険okですが、3剤以上は保険を切られる可能性がありますので、ご注意ください。どうしてもの場合は、3つ目は頓服で私は出しています。

#1 11βヒドロキシステロイドデヒドロゲナーゼ活性測定法の開発とその応用: 柴朴湯成分の本酵素に及ぼす作用 福田俊明 東大医誌52(3)291-297, 1994

#2 柴胡剤の作用機序の検討 山本忍, 新妻知行, 伊藤久雄 日本東洋医学雑誌第44巻第3号83-94, 1994

日常生活がこなせる~仕事もなんとかレベル(医師処方)

首から上の脳の熱感が強い: 黄連解毒湯+桂枝茯苓丸or当帰芍薬散

のどの痛みや呼吸器周りの症状が強い: 柴朴湯+桂枝茯苓丸or当帰芍薬散

もともと慢性副鼻腔炎もち: 荊芥連翹湯(体の深部の炎症に効きます)+桂枝茯苓丸or当帰芍薬散

自律神経系の作用が強い、羞明、光が苦手: 四逆散、抑肝散、抑肝散加陳皮半夏+桂枝茯苓丸or当帰芍薬散

咳が強い、胸部圧迫感が押し寄せる: 柴陥湯+桂枝茯苓丸or当帰芍薬散

胸部圧迫感、ぎゅーつとおされる: 柴胡疏肝湯(煎じ薬)+桂枝茯苓丸or当帰芍薬散

これら以外にも、柴胡剤を中心に使っていますが、お勧めは、桂枝茯苓丸や当帰芍薬散など、病巣部位の炎症物質を洗い流す目的で、駆瘀血剤を加えることです。柴胡剤、荊芥連翹湯、黄連解毒湯は個々の副作用にも要注意です。

日常生活はなんとか・・・外出は、無理or短時間ならokレベル(市販薬でも対応可能としています)

このレベルが、柴胡剤が飲めるかどうかのボーダーラインだと思います。

どうしても、症状の改善には、柴胡の入った処方が必要だと考えています。

患者さんが飲めるならば、最もマイルドな柴胡剤、柴胡桂枝乾姜湯と当帰芍薬散を励ましながら飲んでもらってます。必ず温めて飲むことの指導をしています。匂いでダメな方は、水で流し込みも可、としています。それでも飲めなければ、下記にグレードダウン。


●2022.10.15追記

漢方薬の辞典をぱらぱらめくっていて、偶然思い出しました。下肢の筋力低下のため、歩行困難に陥った人によい漢方薬があったことを。

十味剉散(じゅうみざさん)と言います。四物湯をベースにした処方です。ペインクリニシャン兼漢方医の平田先生が、エキス製剤での作り方をご提案しておられます。

ツムラ97大防風湯1袋+ツムラ25桂枝茯苓丸1袋を混合して、溶かして温かい状態で飲みます。

注意点は、通常の保険診療では定期処方は2剤まで。それ以上は保険が適用されない可能性があるので、あれもこれもと処方を受けないようにご注意を。

地黄が入っているので、胃にもたれます。後遺症重症の方で「補中益気湯」が飲めないほど衰弱した方はお控えください。

大きな副作用ありませんが、半年ほど飲んでみて効果を感じられない方はおやめください。効かない漢方を飲む意味はありません。

寝たきりまたは、それに準じたレベル(市販薬でも可能としています)

胃腸漢方をご参照ください(リンクに飛びます)。

腸管を立て直さないと、いい漢方も吸収できません。必ず温めて飲むことの指導をしています。

ほとんどすべての漢方を受け付けない人や小学生以下

小建中湯のみ。六君子湯飲めるなら、六君子湯も。

小学生以下はまず味です。温めて湯で溶いて飲むのが理想ですが、小児の場合は、オレンジジュースに溶く・ヨーグルトに入れる・ココアに入れる、など本人の嗜好に合わせ様々な工夫をしていただいています。しかし、温かい飲み物に入れるのがベストです。

多少は漢方を飲める場合

黄耆建中湯(腸)+六君子湯(胃)

小児も飲めるならば、こちらでもよいでしょう。黄耆建中湯も非常に飲みやすい漢方です。

ほか、大建中湯や真武湯や人参湯も証に合わせて考慮しています

絶望し、とにかく気力がもたないレベル(市販薬(①)、医師処方(②)どちらも可能としています)

煎じ薬では、四逆湯、茯苓四逆湯、通脈四逆湯を私は用います。どれもエキスでは手に入りませんが、組み合わせて作ります。

電話で、超絶の苦しみを訴えてきた患者様もおられます。下記の①をネット購入してすぐ飲むよう指示することもあります・・・ありがたい時代です。

①真武湯+人参湯: 1袋+1袋、合計2袋で1回分

茯苓四逆湯に近くなります。気力がもたないレベルの人は外来に来れません。所論ありますが、私の方針は、「真武湯・人参湯は市販薬でも可能」です。これらの漢方は、上記に挙げた漢方に比べ、肝機能障害などの合併症がありません。むしろ、一般の方が手に入れても安全性の高い漢方でありながら、力価のある漢方薬となります。市販薬の場合、医療用に内容量が近い、下記の商品をお勧めしています。(このサイトは紹介による一切の収入を得ていません。サイト管理人大福が内容量を厳密にチェックし、良い商品を単に紹介しているだけなので、ご安心ください。)下記以外の製薬会社さんは、医療用漢方に比べ、内容量が少な目になります。

②三和細粒の附子理中湯(医師処方のみ。保険適応あり)

電子カルテの処方箋で画面に出てこないことも多い処方です。しかし、保険で出せます。私は、手書きで処方箋に書き加えています。

①真武湯+人参湯、②附子理中湯、はどちらかです。両方は過剰なので禁です。何があっても温めて飲まねばなりません、と指導しています。①、②ともに甘草は3g/日と多めになるので、他剤で甘草を含む製剤を処方される場合はご注意ください。

①、②は体の芯に力がやどる、と言われます。

四逆湯類は1700年昔から多くの人を救ってきた名処方です。私も、助けられています。ご参考までに。