舌を鍛えてます

漢方を心から愛する私は、様々な漢方を飲んでいます。

「純粋に好き」以上に、漢方医として、「生薬の味を知らなければ対応できない事態」がときおり発生するからです。

漢方研修医のころ、調剤室にある生薬を少量ずつ分けてもらい、家で1生薬ずつ煎じて飲んでいました。一個一個、どんな味がするのか、純粋に興味がありました。一つ一つ風味や香り、味をノートに書いて覚えて。30種類くらいは、個々に煎じて飲んでみたでしょうか。

その頃の経験がもろに生きる瞬間があります。

漢方難民、と勝手に私が名付けている一群の方々がいます。様々な体質診断をされ、様々な漢方薬を飲み、目が飛び出るような大金を払っても、思ったほどの効果を感じられず、最終的に、漢方専門外来に流れ着く方々です。

そのような方々は、診察室に入って来るや否や、大事そうに、しわくちゃのきんちゃく袋をカバンから取り出します。「(おごそかに)先生・・・これを飲んでいます」と言いながら、よく分からない丸剤を指でつまんで私の鼻先へ。

「これ、材料は?何でつくった丸剤ですか?」この質問にきちんと答えてくれる人はほぼ皆無です。食品添加物は気にしても、漢方薬の中身は気にしない・・・この矛盾は一切、つっこみません。

箱を見ますが、中国語で色々、たくさん書いてある。

内容が分からないと話にならないので、私はその鼻先に突き付けられた丸剤をぱくりと食べます。よくわからない物体を私が躊躇なく食べるので、後ろについている看護師さんはドン引きします。

大体は、はちみつで固めた、よく知った生薬の味がします。何が入っているか、舌に集中して確認します。芍薬があれば特有の舌の不快感がありますし、大黄があれば苦い、生姜があればスパイシー、山茱萸や五味子や陳皮があれば酸味、山梔子があれば特有の色味があるが、ウコンと見分けは難しい・・・など。

患者さんが持ってくる、よく分からない粉薬も一緒。看護師さんにコップにお湯を入れてきてもらい、溶かして飲みます。ごくん。あーこれ、加味逍遙散だ。念のため、薬局から同じ漢方を取り寄せ、飲み比べて最終確認します。

患者さんは、様々なところで「あなたは何々証。この漢方」と言われ、知識のある方が多いです。そんな彼らは、私の出す漢方薬に「体質が合わないとヤだ」など抵抗し、飲んでくれなかったりします。彼らに近づく唯一の方法・・・?として始めたよく分からない漢方の名前当てですが、距離がぐっと近くなり、またこちらのお話も聞いてもらいやすくなります。さかずきを交わしたみたいになるんでしょうか。

先入観のある方は、治療が難しいです。素直に聞いてくれたらどれほど楽か・・・

試食でいつかお腹を壊すかもしれません。大福。