がーしー大福 その2 -目を動かした息子-

大福は燃えた

もう5年以上前のことです。患者さんの思いもあるので、少し事実をアレンジしてお伝えいたします。

私の外来に、バイクの交通事故で植物状態になった息子さんを看病しているお母さんがいらっしゃいました。

「謎の粉薬」を持っています。その粉薬を飲むと、たまに息子が目を動かすという。

その粉薬は、一家の財政を圧迫していました。ひと月30万円、とある漢方薬局に支払って手に入れているのだそう。お母さんは、息子さんが少しでも良くなる兆しがあるならば・・・と必死です。昼に夜にと働いていました。でも、これからずっとその金額は払えない。同じような漢方が保険で出せないか、というご依頼でした。

私の家も裕福ではありませんでした。母はヤクルト配達、父はバスの運転手、3人きょうだい一番上の大福。父や母の姿が目に浮かびます。もしも両親が同じ目に合ったら・・・私は大学に行けなかったかもしれないのです。

きちんと「本物の生薬を粉砕した粉薬」ならば、まだ良心的なほう。でも、その「謎の粉薬」は明らかに大手製薬会社・ツムラ社などのエキス製剤の中身をそのままにパッケージだけ変えた品でした。

メラメラと燃えます。なんちゅう悪徳な・・・。五百歩譲って言いますと、売る側の彼らにも生活はあります。しかし、適正価格というものがあるでしょう。

大福の鍛えた舌が役に立つときが来ました・・・(詳しくは、「舌を鍛えてます」リンクに飛びます)

急いで、お湯に溶かしてごっくん。

な・なんですと!!・・・一口で判明。自費だと1袋30円、保険(3割負担)で1袋10円の「五苓散」というお薬でした。

五苓散は利水剤といい、体内の余分な水分を外に出す働きをします。恐らく、脳の浮腫を一過性にとったため、患者さんの意識が一瞬改善することもあるのでしょう。それにしても、暴利です。

息子さんを思うお母さんの気持ちを踏みにじる行為だと思いました。

当然、保険で同じ薬剤をお出しして、お母さんをしっかり説得いたしました。

このお母さんに私が伝えるお話を、下記にまとめてみました。このブログを読んでくださっている方々のお役に立てるとうれしいです。長いですが、お読みください。

自分のことを人任せにするな

皆様、食品添加物が話題になっている昨今、スーパーで食品を買うときに、ちらりと内容物の記載を見る方も多いと思います。コンビニのおにぎり一つとっても、米と具以外に色々入っています。

自身の口に入れるものに対して、注意を払うというのはとてもいいことだと思います。その感覚を漢方にももっていただきたいのです。

あなたに、「これが合っているよ」と漢方薬を勧めてきた方に、下記の質問をしましょう。サイトを見るときの注意点も同様です。


「証」という言葉にひるむな

●脈診・腹診など体に触れての診断行為は、医師と鍼灸師しか正規の教育を受けることができません。あなたに色んな治療法を進めてくるその相手は、どんな人なのか? よく見てください。

●「その漢方薬がどうして自分にいいのでしょうか?」→「あなたの証だから」→「何証ですか?」→「〇X△・・・」以降の説明がなんであれ、がーしー大福その1(リンクに飛びます)で説明したように、説明者が、きちんとトレーニングを受ける機会があった立場の人なのかどうかを、心の中で考えます。そのうえで、相手の言うことに一理あると思えば、その薬剤を購入すればよいのです。あくまで、決めるのは「自分」。


何を自分は口に入れることになるのか、気にする

お薬情報

●「この漢方薬には何の成分が入っていますか?」この質問は大事です。漢方薬の構成生薬は必ず、紙で印刷してもらうようにしてください。この画像のような紙は一つの例ですが、こういう形で情報をくれるとベストです。メモ書きでもいいでしょう。断られたら、こう言ってください。「漢方薬で「じんましん」や「しびれ」などの副作用が起こったら病院に行かねばなりません。そのとき、何を飲んだか医師に提出するのに、今飲んでいる漢方薬の詳細が必要です。」と。


薬剤師さんは、丁寧な説明の義務があるのです

●相手が漢方薬剤師であった場合、お薬についての詳細をきちんと説明するのは、彼らの職務上の義務です。これらの質問に誠意のある答えを返してくれないならば、そもそも信用してはいけないでしょう。

●もう一つ良い点があります。このように、意識の高い質問をしてくるお客さんには、売る側も無茶な商売をしてこないのです。

中医学の特別感に注意せよ ~アンテナを張れ~

●中医学には独特の響きや特別感があります。あなたは、普段元気なのに、「裏寒」がある、と言われた瞬間に何か治療が必要なんだろうか・・・と心に弱さが出てきます。でも待って。よく考えて。目の前の相手は何故、そのような馴染みのない言葉を使うのでしょうか? まず信じるべきか?・・・あなたの心にふと疑問がよぎれば・・・このサイトを作った意味があります。

●中医学のもつ特別感や難解さは患者さんに向けるのではなく、中医学を使って診療する「自分の思考過程」のなかに向けるべきだと思います。ましてや、「あなたは何々証だからこの治療はダメ」と他者の比較や否定に使うのは言語道断。「中医学の特別感」を「自分の特別感」に転嫁しているのです。

●数週間前、とある鍼灸院のツイートを見ていました。そのツイートは中医学の難しい言葉を散りばめており、何だか新しい疾患を語っているような雰囲気がありましたが、まとめるとコロナに補中益気湯は害悪である、という趣旨のツイートを数多く行っていました。

●確かに鍼灸師は、東洋医学を学び、患者さんに触り診断し治療することができる国家資格です。しかし、鍼灸師は、鍼灸に関しての診断と治療方針のみ、言及することが許されています。相手の処方について害悪になるからやめろ、は治療を中断させ悪化させる可能性のある行為です。問題があると思われました。

●このように、中医学の独特感を自分の独特感に転嫁する人は、たくさんいるのです。皆様、一つの処方にはいい面も悪い面も当然、あります。一方向の否定が何だかおかしい、と思うのはどの世界でも同じでしょう。「人としてのアンテナ」を働かせればそれで充分なのです。

●中医師さんのサイトやYOUTUBEで難しい中医学を分かりやすく説明するサイトは沢山あります。漢方薬を大事に思い、誰かの役に立つことを考えた方によって作られた・・・それこそ、いい情報元だと思います。難解であるからこそ、沢山の言葉で、良質な情報を提供する必要があると思います。

●昨日、平畑先生のツイートで、とある漢方の製薬会社の漢方製造中止のニュースを見ました。漢方薬は自然のもの。中国の乾燥した大地にしか生えない薬草も沢山、あります。限りある資源ですし、栽培も非常に気を使います。枯渇すれば当然、値段は上がるのです。生薬卸会社さんもエキス製造会社さんもギリギリのコストで運営しています。医師に処方してもらった漢方薬。安く手に入ったとしても、皆様、大事に飲んでいきましょうね。

●これからもお付き合いくださるとうれしいです。大福。