急性感染症の患者さんを漢方医学的に診察する時に、考えるべきポイントは3つあります。

第1ポイント

「病原体に対する生体反応をよく観察すること」です。もともとの体質としての陰陽虚実も考えますが、急性感染症ではまず第一に、「現時点での、病原菌に対する個々の反応のしかた」を発熱・発汗・悪寒・全身状態・脈診などで総合的に判断しようとします。

第2ポイント

「体温上昇経路と体温下降経路は同程度に働いているか?」という点を常に考えることです。そうでないと、体温は恒常性を保てませんから。これらの経路については、「体温調節のしくみ」のページをご覧ください。

第3ポイント

個人の体質や病原菌の性質により、体温上昇経路が働きすぎたり、体温下降経路が働かなかったりします。その逆もあるでしょう。第3ポイントは、「体温上昇経路と体温上昇経路、両方の経路がバランスよく働くには、どうしたらいいか」を考えることです。

感染症漢方薬が目指す「理想の状態」

白血球が活性化するためには、37-38℃の高体温を維持する必要があり、漢方では「体を温めること」も大事な作用となります。急性感染症の漢方が理想とし、目指す生体状況は、スムーズに体温が上昇しつつも、同時に、適度な血管拡張によって放熱・発汗しており、高すぎる体温にならないようにしている、です。この生体状況にもっていくために、ベストな漢方薬を選択しなければなりません。

例えば、頭痛・悪寒・発熱・汗の出ていない患者さんがいるとします。第1ポイント、「病原体に対する生体の反応」は「戦いを起こしている」です。白血球がサイトカインを出し、体を発熱させてウイルスとの戦いの準備をしており、この反応を「実証」と言います。次に第2ポイントとして、「体温上昇経路が優勢であり、体温下降経路は劣勢である」と考えます。最後に第3ポイント、体温上昇経路と体温下降経路のバランスを取ることを考えます。この例では、「体温上昇経路が働きすぎると生体にとっては辛い状況になるから、体温上昇の働きを維持しつつも、体温下降経路を働かせるにはどうしたらいいか」を考えます。具体的には、「戦う力を持った生体(実証)」に使える、体温上昇と体温下降の経路、両方を補助する桂枝・麻黄の入った漢方薬を選ぶこととなります。

発汗を重要視する意味

漢方医が急性感染症の患者さんを診る時、汗をかいているか否かを重要視しています。発汗の有無って、本質は、何をみているのでしょう? それは、第2ポイント「体温調節機構の働きがうまく働いているかどうか?」です。「汗」とは、体温下降経路が有効に働いているかどうかを判断するのに、もってこいの基準です。働いていないなら、「発汗」させることで熱を放散し、体温下降経路を働かせる必要があります。第3ポイントの「どのように補助すれば、生体の辛さを軽減しながらも、病原菌と戦いやすい状況(高体温)にもっていけるか」、を考えるために「汗」が重要となってきます。

体温下降経路が有効に働いているかどうかは、ほかには、顔の発赤や脈診などでも判断します。

大福ギャラリー

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